不都合な真実集 - 北海道の風土病? ~ エキノコックス

資料提供: 東島 康久 さん

キタキツネ  格言:キタキツネに触ったら、手をあらおう... (^^; というのが、北海道では常識になっています。
知床半島 岩尾別付近にて....
(1993/10/09 たかはし@札幌 撮影)

 エキノコックスについては、名前と「なんとなく恐いもの」ということはご存じの方も多いのですが、 案外本当は何なのかはご存じない方も多いかもしれませんね。

 では、エキノコックスに関しての基礎知識講座をはじめたいと思います。 ちょいと長文になりますので、心してかかって(大嘘)くださいね。

1.そもそもエキノコックスって何?

「寄生虫」なのです。条虫類(じょうちゅうるい)の仲間になります。成虫の大きさは3〜5ミリです。

2.どのような寄生経路をたどるの?

「虫」ですから、最初は卵です。成虫は犬、キツネ、猫などの小腸に寄生して いますが、成虫が産み出した卵が宿主(ここでは犬・キツネ・猫の事ですね)の 糞便とともに外界に排出されます。

排出された卵が家畜やネズミ、あるいはヒトの体の中に入ってしまうと、体内で幼虫になってしまいます。
(口から入らないと幼虫になりません)

ネズミの場合は、ネズミのままで犬、キツネ、猫に食べられてしまう場合がありますが、その時一緒にネズミの体内にあるエキノコックスの幼虫を食べてしまった場合、宿主の中でエキノコックスの成虫になります。

家畜・あるいはヒトの中で幼虫になったエキノコックスは成虫になれません。
よって卵を排出する事もありませんので、ヒトからヒトへの感染はありません。
(家畜から家畜へ、家畜からヒトへの感染もありません)

3.ヒトに感染したらどうなるの?

まず体内で幼虫になります。幼虫はそのまま肝臓に寄生します。そこから肝機能障害などを引き起こす可能性があります。
幼虫の発育は遅く、自覚症状が現れるまで数年から数十年かかります。

ごく平均的な例を出すと、虫卵が体内に入ってから約10年は無症状で過ぎていきます。
その後エキノコックス症として肝腫大、上腹部不快感、黄疸が出てきます。
そのまま処置しないと約半年で腹水がたまり、やがて死に至ります。

エキノコックスそのものが子供の頭ぐらいの大きさになってしまう事もあるそうです。
結局は何もしないと死に至る病気になってしまうのです。

4.どんなときにヒトに寄生してしまうの?

例えば
(1)エキノコックスが寄生したキツネやその糞便に直接触ったりした場合
   (猫や犬でも寄生していれば同じです)
(2)キツネや犬猫の糞便で汚染された山菜を生で食べた場合
(3)キツネや犬猫の糞便が入った沢の水などをそのまま飲んだ場合

要するに「卵」が入っている可能性のあるものをそのまま口から摂取してしまうと、寄生の可能性があると言う事です。

卵は条件によっては1年間生きています。現在の所、卵に効く消毒薬剤などは開発されていません。
が、熱には弱いです。60℃10分間加熱で死滅します。
100℃では即効死滅します。

5.ヒトに感染してしまったら治療法はあるの?

現在医薬品による有効な予防・治療の方法はありません。
外科的な手術をして取り出すよりほかありません。

6.予防の手だてはどうすればいいの?

(1)まずは正しい知識を持ちましょう(^^)
(2)沢水や井戸水などを水源としているところでは、飲料にする前に加熱処理などを実施すると効果があります。
   生水は飲まないように。
(3)犬や猫を食べ物に近づけないようにしましょう。
(4)今は血液検査で寄生の有無がわかります。
   定期的に検査を受けて、万が一、寄生されていたら早期に手術して取ってしまいましょう。
  (厳密に言うと「血清」による免疫学的検査です)

7.ところでどうして北海道特有の寄生虫なの?

話は大正時代にさかのぼります。
大正13年、礼文島の中で野ネズミが大量に発生して困り果ててしまいました。
そこで、野ネズミの天敵であるキツネを島内に放し飼いにしたのです。

もともとそのキツネはラッコの保護地のキツネだったのですが、そこがネズミのエキノコックス感染率が50%を越えるような地域で、そのあたりから入ってきたのではないかと言う説が有力だそうです。

そこのエキノコックスは、もとはシベリアやセントローレンス島からはいってきたらしいのです。

では、道東のエキノコックスについてはどこからきたのでしょう?
これは、キツネの自然侵入によるものだそうです。

戦前、花咲港の沖のユルリ島で、キツネの養殖をしていたそうなのですが、戦時中(あるいは戦後)に柵を越えて脱走し、流氷に乗って根室海岸に侵入したと言うのが定説となっています。
(昭和41年4月に漁船が流氷を歩いてわたっているキツネを発見しています)

前にも書いたとおり、卵を出す成虫は、幼虫の寄生したネズミを食べないと寄生できません。
その様な原因となるネズミが道外に出る事が少なかったからではないかと言う事だそうです。

仮にいま幼虫を持っているネズミが道外に出たとしても、そのネズミを犬猫が食べると言う事があまり起こらないのだそうです。
ただし、現在の疫学調査ではエキノコックスの発見されている範囲が急激に増えていますので、道外に出る事も十分に有り得ると言う意見もあります。

道内では昭和12年に小樽市在住の女性(出身が礼文島だった)の肝臓の標本から発見されたのが第1号です。
その後何も処置されないまま、昭和40年に釧路日赤病院・釧路労災病院に 入院中の根室市居住者2名から確認され、更に昭和41年に北大病院(← 北海道大学付属病院の意)で1名発見されています。そのあたりから研究がやっとこさ始められました。


資料提供者より (^^;....

やや小難しい話になってしまいましたが、おわかりいただけたでしょうか?
もし不明な点やもっと知りたい事などありましたらお寄せください。
手元にある資料の中でわかる範囲でならばお答えできると思います。

ここまで知識を持っていただければ、充分対処していただけると思います。
もっと詳しい事を知りたいと思われましたら、お近くの保健所に問い合わせていただけると宜しいかと思います。
道内の保健所には北海道が発行している、一般向けのエキノコックスのパンフレットなどが用意してあります。

この内容は1996年2月28日現在の資料で作成してあります。
                  東島 康久

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