2002年12月に八戸まで東北新幹線が延伸開通し、新青森までの建設が行われている中、建設の是非は別として、現状と将来を見据えた論議が本格的に必要な時期と思われます。
各方面で様々な意見交換はされていますが、新潟県出身の列島改造論を唱えた代議士が政治の駆け引きで「上越新幹線」という露骨な我田引水を繰り広げてくれたこともあり、「どうせ地域住民を無視した政治力で決まる」という諦めからか盛り上がりに欠け、白熱した意見交換のような場はそう多くありません。
(北海道人にはこのような諦め認識・無関心な人も結構多いです)[2003年 7月現在]
また、議論そのものも目先のことしか視点が行っていないが故の、多少誹謗中傷じみた意見や、思いっきり思考停止か条件反射的な知能障害を引き起こしているかのような感情的な意見も散見されます。
議論するのは結構なのですが、実際の現状はどうなのか、国益としてどうなのか、をもっと客観的に見て欲しいと感じます。
2003年7月現在、未着工なのは、青函トンネル区間を除く北海道新幹線の全線と北陸新幹線の一部だけです。
ここでは北海道新幹線だけを扱います。
相変わらず、無知なのに結構知ったかぶりする意見(どちらかというと、反対・消極派に多い)がかなり見受けられるので、ここに客観的な内容を列記しておきます。
これら4つの意見に概ね集約される。
説明の必要は無いとは思うが、以後「自分はどの意見派に一番近いか」を最確認し、明確にする意味で、ひとつずつ説明をすることとする。
● 反対派と ● 消極派は、「我々の意見は大勢に決まってる」と言い切る人が多い。
しかし、それを裏付ける証拠というか、情報が無いのである。
更に具合の悪いことに、裏付けが無い情報が大きな声になっていて、ヒステリックじみた反対意見が目立っている。
無意味な情報操作に踊らされて、これからの進むべき道を誤ってはいけない。
旧国鉄の膨大な国家予算1年分にも迫る累積赤字の過去もあって、鉄道関連の事業は視線が厳しい。
平成12年あたりに国土交通省が試算した北海道新幹線の建設費は、約1兆5500億円である。
デフレが続く限り、この価格が跳ね上がることはないだろう。
しかし、現実には先ずこの建設費が槍玉に上がっている。
北海道新幹線の新青森〜札幌間 360km のうち、青函トンネルを挟む前後 82km の区間は既に完成しているのはよく知られており、実際には残り 280km 弱を建設することになる。
公共事業の総額としては、決して突出しているわけではない額である。
しかし、小さくない規模である。
政府は、毎年3000億円を高速道路建設に拠出しているが、そのペースだと5年程度で出来る。
しかし、某銀行への公的資金注入にパッと、2兆円を拠出し、それには批判の声は小さいのである。
少なくとも北海道の住民に直接恩恵は殆ど無い。
次に槍玉にあがっているのが、需要予測である。
反対派・消極派の中には、これを全く省みなかったり、頭から信用していないという方々もいる。
信用できなければ、それに対抗できる客観的な資料なり情報なりを出せば良いのだが、そういう事をやってる反対派・消極派を見かけない。
だから「ヒステリックじみた反対意見が目立っている」のである。
しかし、需要予測もこれだけでは説得力に乏しい部分があるのも否定できない。
○ 建設費償還スキーム(前 衆議院議員 佐藤静雄のホームページ)〔リンク切れです 2009/07/07〕
○ 北海道新幹線の需要予測と収支採算性について(北海道新幹線建設促進札幌圏期成会)
大きく、「野村総合研究所」に委託し、出来上がってきた資料と「北海道大学工学部 佐藤 馨一 教授」の2つの資料しか一般庶民にはお目にかかることが無く、しかも抄録でしかない。
このあたりの情報提供がおろそかなのを無視して、陳情だけやっても駄目。
どちらも共通しているのは、札幌開業の場合に「初年度から黒字」である。
「公開資料が無い」というならば、それは「熱意が足りない」ということである。
このあたりが、根拠が無い反対意見を多く生む温床にもなっている。
どの資料を見ても飛行機を使う場合の所要時間が、実感より短い時間で示されている。
数ある所要時間の項目で、提示されている情報を見ると、概ね以下のような感じである。
区 間 | 新幹線 | 航空機 | 在来線 |
---|---|---|---|
札幌〜函館 | 48分 | 2時間16分 | 2時間59分 |
札幌〜青森 | 1時間22分 | 2時間41分 | 4時間58分 |
札幌〜盛岡 | 2時間03分 | 3時間01分 | 7時間14分 |
札幌〜東京 | 4時間23分 | 3時間28分 | 9時間43分 |
客観的に所要時間の比較を単純にする分には、仕方ないのだが、大多数はそう単純ではない。
飛行機に乗るためは、概ね90分前に出発しなければならない。
札幌の場合は、新千歳空港までが遠い。羽田の場合は、目的地/出発地によるが、東京駅付近からは1時間近くはかかる。
これが空港のそばや駅のそばだと、自ずと所要時間は短くなるが、大多数は、駅や空港に時間をかけて移動するだろう。
更に最近は、手荷物検査が厳しい分、搭乗口まで行くのに時間がかかるので、搭乗する便の定刻の30分前までには行かないと危ういのである。
飛行機の搭乗で手荷物を預けると、20分程度は、それを受け取るために待たされる。
例えば、札幌〜東京間は、新千歳空港までの90分+実際に飛行機に乗っている時間90分+羽田空港から目的地までの移動90分で、合計4時間30分。これが一番実感に近い所要時間である。
提示されている所要時間より1時間長い。「実際は3時間30分では着かない」が率直な感想。
手ぶらだったら可能かもしれないな、というところ。
また、交通機関の乗り換えを強いられるから、移動時間が短いほど負担感がある。
その分、新幹線だと乗り換え回数が減り(これが一番大きい)、手荷物を預けるタイムロスも発生しない。
ただし、それも目的地によることを忘れてはならない。
より、恩恵を受ける人が飛行機による移動より多い、という事実が重要である。
首都圏であれば、函館や小樽や札幌へ行くのに、
「東京駅(又は新幹線停車駅)に行くのと、羽田空港に行くのと、どちらが利便的に良いのか?」
という自問自答をすることで、北海道新幹線の価値基準が定まるところだろう。
東京には、年数回雪が降る。
雪が数cm 積もっただけで、交通機関は大混乱する。千歳空港や北海道ではちょっと考えられない。
羽田空港も例外ではない。羽田空港が閉鎖すると、北海道は事実上の孤島になる。
それだけ首都圏との交流が多いことの証でもある。
新幹線がある地域の方々は、次々に新幹線での移動に切り替える事が出来たが、北海道方面はなかなかそういう訳にもいかない。
交通機関の選択権が必要な往来数であるのに、それが無いのである。
旅を楽しむレベルでは我慢できることであるが、ビジネス利用で定時性が確保できないのは、かなりダメージである。
寝台特急列車とかは存在するが、時間がかかる以前に、それだけの人間を運ぶことが出来ないのである。
区間 | 輸送人員 | 提供座席数 | 座席利用率(%) | (備考) |
---|---|---|---|---|
東京—札幌 | 9,619,906 | 14,478,653 | 66.4 | 輸送人員世界一 |
東京—福岡 | 8,425,045 | 13,791,740 | 61.1 | 国内2位 |
仙台—札幌 | 683,240 | 1,161,521 | 58.8 | (参考) |
北海道新幹線に反対し「飛行機で充分」というなら、もっと雪対策に費用をかけるべく行動すべきだろう。
また、羽田空港が拡張されてまだそれほど経っていないが、2015年迄には4本目の滑走路を整備しないと、容量不足に陥る見通しであることも現実問題として見据えておかなければならない。
国土交通省で検討途上の4本目の滑走路の整備計画案のうちひとつは、滑走路1本作るだけで北海道新幹線が札幌まで引けてまだ余ってしまう事業規模額でもある。
いずれにしても現在の国土交通省には、将来の日本をどうしたいのか、を明確に示して頂きたい。
東京の一人勝ちでは国そのものが滅びるのは間違いないのだが・・・
また、参考までに東京—札幌線と東京—福岡線の航空旅客輸送実績を示した。
札幌と福岡は都市圏の人口規模がほぼ同じである。首都からも遠く離れている。(単体では札幌は福岡より50万人弱程度人口が多い。)
だからよく比較対象にされる。圧倒的に違うのは経済規模だろう。
しかし、福岡線は、120万人ほど札幌線より輸送人員が少ない。120万人が他の交通機関使う、とは決して言えないが、新幹線と高速バスが単純に残りの分である、と言ってもそんなに誤差はないだろう。
しかし、JRの輸送人員のデータを入手して、もっと客観的に議論する資料としたいところである。
北海道の人口は570万人(2000年10月現在)。うち半分は、札幌から苫小牧にかけてと、その周辺の住民。
かなり偏った人口分布である。
最近はだいぶ減ったが、あたかも北海道民の総意であるかのような広報をしている団体もある。
札幌は北海道でも西に偏っているので、道東(網走・十勝・釧路・根室)や道北(留萌・上川・宗谷)の地域に恩恵は少ない。他所の出来事としてしか眺めることができないのである。
これらの地域には、逆にミニ新幹線のようなものでもないと、恩恵は受けない。
対本州でなく、対札幌が重要。実現させるには、JR北海道に儲けさせないとならない。
最近は自制しているが、在京マスコミは都合がいい非難が得意だ。
在京の知識人は、物事を知っている振りをする無知なのが多い。
これも「ヒステリックじみた反対意見」を世論にしてしまう温床である。
だいぶ前に「熊しか通らない高速道路(道東自動車道)」発言をした某大臣に、鈴木宗男氏が激怒して怒鳴りちらしたことを在京マスコミが嘲笑していたことは記憶に新しい。
某大臣はジョークのつもりだったろうが、これは明らかに通じないジョークである。
#ムネヲ氏が怒鳴りちらした行動は正しい。謝罪したか? < 某I大臣
在京マスコミは、ここは非難すべきところを、一緒にムネヲ氏を嘲笑していたから知的レベルの低さだけが目立つ。
北海道は未だ未開の地なのかね?
そういえば、AIR DO も札幌市営地下鉄も最初は、「熊を乗せるのか」と国の役人に舐められていたが・・・
[2004/12/27 追記]
在京の知識人は、やはり地方を数段低く見ている(見下ろしている)感を否定できない。
最たるものが「採算がとれるかどうか不明」というくだりである。
口を揃えて、「需要予測に悠意的な数値操作が行われている」と言う。
しかし、その反論とする客観的情報・データが全く出てこない。
「やるまでもない」とタカくくっている。
これでは、単に「ヒステリックに批判」しているだけという風に見えるので、発言自体が逆に信用できないのである。
# このサイトの運営者や、整備新幹線問題を真面目に考える者達にとって、「ヒステリックな批判」が一番嫌なのだ。
実績がないから「採算がとれるかどうかは不明」なのは、ある意味当たり前(どうにもならない)である。
しかし、普通の一般企業だって、「採算がとれるかどうかは不明」なものに投資するでしょう。
株価アナリストあたりは、そのあたりは判り切っているはず。
そして、「税金は違う」と都合よく非難。高速道路・地方空港・社会保障費はどうなんでしょう。
整備新幹線より、はるかに大きな規模の予算が使われている事を無視すること自体、信用に足らない。
新東京国際空港が遠く離れた千葉県成田市に新設されることが決まった時点で、既に拡張整備自体に限界が見えていたと言うべきだろう。
空港を拡張するにも、日本国内には適当な場所がない。
だから、
などが平気で出来てしまう。
新千歳空港や新東京国際空港、関西空港は、それでも交通アクセスは良いほうである。
手ぶらで出かけるならまだしも、大きな重い荷物抱えて交通機関を乗り継ぐんだから、移動の負担を感じる。
外国に行くならまだ気合が入るが、国内でビジネス移動となると、不精者は億劫になる。
加えて飛行機は持ち込めない荷物や、手荷物でも中身を出しておかなければならないものなど、最近は手間が多い。
それにもかかわらず、利用者は増えている。
[2004/12/15 追記]
航空運賃は、原油高騰を理由に再び値上がりしており、利用者が少し減少している。
羽田−千歳線は、平成15年度で 920万人余り(国土交通省)というデータがある。
人口減ではなく、せっかくの需要が埋もれたことになるが、函館〜八戸の特急「白鳥」「スーパー白鳥」が緩やかな右肩上がりで好調という話を時々聞く。
札幌から、特急列車「北斗」で函館、特急列車「白鳥」で八戸、東北新幹線で東京と2回、平日に乗り継いで行ってみた事があるが、消極・反対派が言う「誰も乗らない」「せいぜい鉄オタだけ」は真っ赤な嘘であることがわかる。
少なくとも外国人旅行者・家族・どうみても鉄道オタクに見えない数10人が、札幌から東京まで鉄道を乗り通したことを、2回とも確認した。
よく、3時間以上かかる地域への移動は「飛行機が優位」と言われる。
それはそうかもしれないが、北海道内で陸路3時間で移動できる範囲は大した広くない。
札幌—釧路、札幌—稚内、札幌—北見・網走は、3時間でたどり着けない。
だからといって、飛行機で移動する人は、そう多くない。
運賃が馬鹿高いのもあるが、それ以上に5時間、6時間の移動はごく普通だから、わざわざ「飛行機使おう」なんて考えないのである。
その延長で、北海道新幹線が出来たら東京へは4時間余りだから、仕方なく飛行機を使っている利用者は好んで新幹線を選ぶ。
このような利用者がどれだけいるのかが未知数だが、採算ベースは 12,000人/日なので、JRとしては充分な勝算である。
# 控えめ(現状の年間航空旅客運送人員を10万の桁で切り捨てる、1日あたりの航空旅客運送人員も100の桁で切り捨てる)に単純計算してみると、現在在来線で函館—札幌間、飛行機で、仙台—札幌間・東京—札幌間 を利用している人のうち、10人に3人が新幹線を使えば、採算ベースを充分に満たす)
現状、「新幹線が開通しても、まず乗りません」という声だけが大きいが、利便性が判らないか、飛行機好きだからそう思ってるに過ぎないように思えてならない。
(北海道育ちの現役世代の多くは、修学旅行で新幹線使ったくらいしか機会が無いのである)
北海道内の場合は「航空路線の充実」より「時速150kmで走行できる高速道路や鉄道」の方が、求められる公共事業でもある。
江差線(五稜郭〜木古内〜江差)の全線、函館本線の一部(旭川〜札幌〜小樽を除く全線)は、地元合意が取れている。
(但し、「大局的な観点で、やむを得ず」という感じで、諸手上げて合意をしている訳ではない)
また、函館本線の小樽〜余市間は、JR北海道直轄でという説もある。
一見、JR北海道にとってはおいしい話である。
しかし、既存インフラに固執して、時代の変化に呼応した交通体系の役割分担を否定して妨げてしまうと、北海道の鉄道は、札幌近郊を除いて無くなる可能性がある。
函館本線の大半を経営分離しても、根室本線や宗谷本線、石北本線はJR北海道直轄だからである。
全ての鉄路を民間事業として収益を上げなければならない「JR北海道」そのものが、そう遠くない未来に維持できなくなる。
本来、公共性の高い事業を一民間業者に任せるのは酷な部分がある。
儲かっているうちは問題ないが、儲からなくなってきたときにどうするか・・・である。
儲からなくなってきた時に「問題だ」と騒いでも、それは会社を潰す行為になる。
問題にするくらいなら、非営利事業で率先してやれば良い。
しかし、その場合も地方公共団体が運営に積極的に支援する必要はあるだろう。
それが法律上できないのであれば、そういう規制撤廃をするのが先だが・・・